ここは都会の片隅にあるマンションの一室。
この部屋で一番陽当たりの良い場所では、かつて、一匹の猫が眠っていました。
今はもうそこには居ません。
猫の先生として、住人にたくさんのことを教え、そして去りました。
猫の先生は、住人の前から消えましたが、後に住人に小さな猫との暮らしを与えました。






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わたしがあなたの前から消えて、とうに三年が過ぎました。
小さな猫との暮らしはどうですか?
もう、小さくはありませんでしたね。
わたしよりも身体は大きくなりましたよね。


あなたの人生に於いて初めての猫は、わたしでした。
病気がちだったわたしを通して猫を知ったあなたの経験は、今の猫との暮らしに役立っていますか?
小さな猫は、食欲豊富で、わがままで、活発で、甘えん坊で、気儘で、好奇心旺盛で、臆病で、とても猫らしい猫ですね。
とても健康ですね。


あなたが、わたしの頃よりも、少しは肩の力を抜いて暮らしているといいなと思っています。
そしてあなたは、わたしがこの世を去ったあとも自分だけが生き続けていることを苦しく感じたことがありました。
その気持ちがなくなっているといいなと思っています。




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あなたは、道に迷います。
一旦立ち止まり、そこでそのまま休みなさい。

あなたは、迷います。
一旦立ち止まり、目から水滴を落としなさい。

あなたは、すぐに迷います。
一旦立ち止まり、顔を上げなさい。

あなたは、迷います。
一旦立ち止まり、考えなさい。

あなたは、また迷います。
一旦立ち止まり、気の向く方へ行きなさい。

あなたは、迷います。
一旦立ち止まり、目の前の猫だけを見なさい。

あなたは、それでも迷います。
一旦立ち止まり、迷いなさい。迷い続けなさい。
それがあなたです。
迷い続けるあなたは、あなたらしくて、それでいいのですよ。





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穏やかに過ごせる日々は、かけがえのないものです。
迷う日々も同じです。
知っていますよね。
わたしが、あなたにそう教えたのです。


わたしの終わりは急ぎ足でした。
突然過ぎる別れで、あなたを残して去りました。
あなたを苦しめてしまったでしょうか。
余計に悲しませてしまったでしょうか。





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今は、できることをやりなさい。
守れるものを守りなさい。
命は、いつか必ず尽きます。
誰にでも最期が訪れます。
それでも、ただ生きてください。
目の前の猫と共に生きてください。


会いたい人がいるのなら、生きて、会いなさい。











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